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kotoko



言葉にするのを躊躇われる映画でしたね。個人的には一番怖いのは人間だと思っているわけですが、それは集団的で徒党を組まれる際の、謂わば多数決とかも怖いなとか思うんですけど、この映画は一人の人間に焦点を絞ってその内面を描いているんですね。たった一人の人間でもこれだけの力があるっていうのを改めて思い知らされました。
映像としてはCOCCO演じる琴子の心理状況に合わせて震えたり光の明滅とかあったりで、そういうので酔ってしまったり、ボッコボコの顔面とか血まみれの腕とかグロテスクなものとかで気分を害するのもあると思うんですが、そういう表面的な演出とかだけじゃなく、えぐり取られるのは琴子の演技にでしょうかね。動きと叫びと表情。

わりと最初の方なんですがまだ幼い自分の子供を抱えながら料理してるシーンがあって。中華鍋を振ってるんですよ。野菜炒めてるんですけど子供の鳴き声と炒める音が結構な爆音なんですよね。そんな中で表情を歪めながら鍋を振っていて、でも彼女の中で何らかの限界が来て中華鍋を窓ガラスにぶん投げて「できない、ちゃんとできない」と壁にもたれながら泣き崩れるとこがあるんですけど、ちょっと目を背けそうになりました。
こんな風に正視できないようなシーンが幾つもあるし、むしろ連続と言ってもいいぐらいで。

原案はCOCCOらしいんですけど、琴子というよりCOCCO自身の映画なんじゃないかっていうぐらいのリアリティが凄まじいんですよね。
琴子は幻覚が見えてしまう精神疾患を持っていて、一人の人間が二人に見えてしまう。それも二重とかじゃなくて、ある男が子供と仲良く品物を選んでいても、その傍らで同じ男がこっちを睨みつけて襲い掛かってくる。その人間の裏側の人格みたいなのが見えて自分に襲い掛かってくる幻覚が彼女を絶望させる一つなんだと思うんですが、そこから生まれた彼女の愛に対しての価値観も問題なんですよ。
愛するが故に傷つけてしまう。そういった描写がこの映画には幾つもありまして、それは自分自身に対してもなんでしょう。
琴子は一人きりになると自分の腕を切る。それはもう何度もです。自殺願望からではなく恐らく落ち着けるためなんでしょう。これって謂わば自分を守る行為で、それをしないとどこにも発散できないままで、その行き着く先こそ死がありそうで、そうなら為に、生きるが為の行為としての腕や手首を切るといったね。イビツですけど自己愛の一つの形なんでしょうね。
同様に自分を愛してくれる男も傷めつけてしまう。けれどそれが皮肉にも救いになる。彼女はそれ以来自分を傷つけなくなったわけで。彼女の中で守るのと壊すことは同時進行でそれが最も厄介な問題なんでしょうね。
ただその男さえも幻覚だったのかもしれませんが、そう思わせる明確な描写は無かったんですけども、どちらでもおかしくないっていう。
「他のものに汚されるくらいなら私が殺してあげる」みたいな台詞があって、両極端で、中間が取れない。白か黒かなんですよね。ただそうだなぁ全て自己愛に向けられているのかなぁとも思えました。
何かを傷つけて殺しかねない部分まで追い込ませるのは、全て自分を生かす為と捉えられなくもないような。
何よりも自分を愛したくて、どうしても最終的には他者よりも自分が優先されてしまっているような。人を愛する為にはまず自分を愛さなくてはとよく耳にしますが、彼女はそれが出来ていないから子供に対しても「ちゃんとできない」なんじゃないかと。


少なくとも僕にとってはこれはフィクションではなかったですね。共感できる部分は大いにありました。それ故に観ててしんどかったですけど。べつに僕が琴子のように何か患っているわけではないんですがね。
人を愛することはそんなに簡単なことじゃなく、それは自身に対してもですよね。愛とのたまいながらエゴの押し付けだったりね。
だからまず自分の価値観とかどういう人間なのか人に説明できるぐらいには知っておく必要があるんでしょう。適当に人と接してそれが楽しいと勘違いしている人は沢山居ますが、それは人に対して楽しく居たいんじゃなく、ただ自分が楽をしたいだけで混同しがちなんじゃないかと思います。本気でサシで面と向かうって、この映画ばりとは言わなくても本当に体力と気力が必要なんですよね。それを改めて教えてもらいましたね。

映画は過酷なシーンの連続とは先述しましたが、柔らかい部分もあります。子供と遊んでいるシーンとかね、壮絶なとこでもちょっと笑えるようなとこもあります。それ以上に映像のインパクトが大きいんですけども。
それと琴子が唄うシーンや踊っているシーンは見とれてしまう。それはもうCOCCOですから、美しいですよ。
でも人に薦められる映画ではないんですけどね。映画好きの人とかどこか客観的に観れる人ならいいと思うけど、入り込みたい人はやめたほうがいいような。僕はこれ銀座で観たんですけど帰り道の銀座の夜景でだいぶ救われました。新宿とかだったら吐いてたかもしれない。笑
生涯忘れることはない映画でした。二度と観たくないけど、でも観てしまうのかもしれないような複雑さ。色々と怖い作品でした。